2007年01月01日

Pro 1【不意の来客】

 昨夜は深夜から未明にかけて電話での打ち合わせ。
 結局朝。追い飲みでベンザリン4錠目。
 軽く風呂に入って就寝。

 起床12:00。
 二日酔いはまったくないが、ベンザリン特有の、首筋に軽くシビレたような感覚がある。
 maicoに「出社15:00の予定」とメッセージ。
 冷たい水とコーヒーとチェーンスモーキングで目覚める。
 13時、レジェンドで家を出る。
 途中、ちょっと早いがmaicoの誕生日のプレゼントを買い求め、出社は14:00。
 maicoプレゼントによろこびつつ、
「ササイさんという方から電話がありました」
「ササイ?」
 心当たりはない。

 社内打ち合わせ、商工会議所からの執拗な電話をかわしつつ、納品のための打ち合わせをさばく。
 一段落つきかけた16時頃、事務所のドアから顔をのぞかせる人影。気配を感じたmaicoが応対に出るも、その肩越しに俺の姿を見つけたその人物、急に顔をほころばせ手を振る。
「タカギ君、久しぶり!」見覚えのない顔。「俺だよ俺、大学で一緒だったササイだよ」
 悪いが記憶にないが、とりあえず「おう」などと言いながらデスクを離れる。
「元気だったかよ」と、ササイ氏。
「ボチボチだよ」
 まだ得体の知れない人物、事務所に通すのもなにかはばかられ、ドアを隔てた店へと案内する。
 赤い壁の内装にもさしたる興味が湧くふうもなく、とにかくうれしそうに俺の顔を覗き込む様子。
「たいへん申し訳ないんだけど、どこで会ったか記憶にないんだけど……」《大学》という台詞を試すための言葉。「誰かと、人違いじゃない、ですよね?」
「え?」とササイ氏はひどく落胆した表情になり「早稲田で一緒だったササイだよ」
 半分だけ、納得せざるを得ない。椅子を勧める。
 ここで、先物取り引きだとか金融商品だのの話が出れば、これは明らかに新手の詐欺。
 間が持たないので、事務所に引き返し、maicoにコーヒーを2杯頼む。
 周囲を見回しながらさほど落ち着きない様子でもなく、テーブルに肘をつき、指を組んで待っているササイ。
「タバコは吸うかい?」と俺。
「いや、今は吸わないよ」
「じゃ、俺は吸わせてもらう」カウンターから灰皿を取り、向かい合って椅子に腰掛けながら、話題を探すのにもストレスを感じる。「何年ぶりだっけ?」
「85年入学だから、そこから計算すると20年になるんじゃない?」と、よどみなく答えるササイ。
「専修では一緒だったっけ?」
「いや、俺は演劇だったけど、タカギ君は」
「美術」
「あ、そうだっけか。とにかく、パンキョーで一緒だったじゃん」
 パンキョー……一般教育。専修が決まるまでの、大部屋での一年間だ。
「よくここがわかったね」
「探したよ、ほんとに」
 探して判る場所じゃない。
「どうやって探したの?」
 相手が本当に詐欺師なら、会社設立の公告を見て来たと考えるのがもっとも自然だ。
「人づても使ったし、ネットも使ったし」
「ネットにはここの住所は出てないはずだけどな」
「最後は足さ」
「足って……」
「裏参道ってところまでは出ていただろ? ネットにさ」
 確かに。
「いつから札幌に住んでるの?」
「住んではいないさ」
「出張か何か?」
「う〜ん、それは話すと長くなるんだけど、とにかく今住んでいるわけじゃない。それにしてもタカギ君、変わらないな」
「変わらないわけがないだろ、すっかり歳くったよ」
「ま、それはお互い様だよね」くったくなく、コーヒーをすするササイ。
「で、こういうのも失礼かもしれんけど、何か用があって来たの?」
 俺が問いかけた刹那に、ササイは口から離したカップを宙に浮かせたまま、それまでのにこやかな相好を崩した。
(何だ?!)
 次の瞬間、店のドアがきしんだ。振り返った。マサゴさんだった。
「いやいや〜、どもども〜」ショルダーバッグを肩に、いつもと変わらぬにこやかな表情で入って来る。
 顔を戻した時、ササイはすでにカップを下におろし、こんどは伏し目がちだったが、くつろいだ表情に戻っていた。
「ああ、失礼。経理担当のおじさんなんだ」
 俺は話のつづきを促そうとしたが、ササイは思いがけず素早い動作でコーヒーを飲み干そうとし、しかしまだ熱いのでそれをあきらめ、立ち上がった。
 それはまったくひとつながりの動きだった。
「じゃ、ボクはこれで失礼します」
「そんなに慌てることないじゃん」
「いや、いいんだ、久しぶりに顔見られたし」
 改めて気づくと、ササイは季節外れの長いコートを着ているほか、手荷物もなにもなく手ぶらだった。
「名刺、持ってる?」と俺。
「いや……」と一瞬迷うようなそぶりを見せたササイ。「今日は、持ってない」
「じゃ、俺のを……」という俺も、ポケットに名刺入れがあるわけではない。
「いや、いいよ、またにするから」そういいながらササイはすでにテーブルを回り、出口に近づいていた。「近いうちに、また顔を出すよ。事務所にはいるんでしょ?」
「ああ。だいたいいるよ」
 予定やスケジュールを細かく教えるまでもあるまい。
「じゃ、また近いうちに」
 ササイ、なる人物は、さっさと出て行ってしまった。
 ぽかーんとした気持ちで、俺は後に残された。

 いくつかの事務処理と、納品のための連絡を、チャットにてこなす。
 思いのほかの修正の多さだ。
 端から見ればまるで静かなものだが、指先では熾烈なやりとりが続いている。
 気づくと19時近かった。
 VOLVOのカメイオートに電話すると、8時でもまだ間に合うというので、車検の上がった車を取りに向かうことにした。家とは逆方向になるが、電車で帰るよりはよかろうと、maicoにも付き合わせ、レジェンドで北に向かった。

「それって何かのセールスじゃないですか?」とmaico。
「いや、それにしては、学部とかなんとか、話のつじつまは合ったんだよ」
「でも、そういうのって、調べること、可能ですよね」
 その通りだ。昨日も苫小牧で、アビバの顧客のカード情報が漏洩したなんてニュースがあった。
 しかしたとえば、「演劇専修」だとか「パンキョー」だとか、あれだけ素早く出てくるもんだろうか。
「パンキョー」って言葉は、どこの大学でも使うモノなんだろうか。
「そういえば、あの男、手ぶらだったんだよ。なんか売ろうとする奴なら、カバンくらい持ってないか?」
「それはヘンですね」
「名刺を出さないのは納得がいくんだよ。もし、なんか目的があるとすれば、怪しい名刺を置いて行くはずないからさ」
「なんか、気味が悪いですね」
「まるで謎だよ」
「社長、気をつけてくださいね」
 そこで電話が鳴り、X社のマユトロ。
「明日、締め切りっす」
「え〜?! マジ?!」
「マジっす」
 なんてやりとりで、ササイの話はそれきりになった。

 車はピカピカになっていた。
「ずいぶん勉強させてもらいました」とは言うものの、板金も含めて40万円弱の請求書だ。
払えるのかよ>俺。

 紅円の誕生日だっていうので、階下の家でお祝いをしてくれたらしい。
 ところがなにがどうしたんだか、ニコが大泣きしている。
 下の家でのごちそうの残りをもらい、バクバクとかき込む。

 妻と娘らが風呂に入っている最中、電話が鳴る。
 義弟のオサムだった。
「南郷にいるんだけど、ケーキ持って行っていいスカ」
「おうもちろん。まってるよ」
 風呂場の家族にそれを伝え、30分以内に上がるように伝える。
 義弟はケーキ職人なので、ケーキは別に不自然じゃないが、それにしても、苫小牧の某ホテルの寮にいるはずが……わざわざ来てくれたのか?

 オサムほどなくして到着。果たして、苫小牧の職場は辞め、今は市内に職場を移したのだとか。
 近所の義父母と義妹、つまりはオサムの両親と妹(maico)の住む家のことも全く知らない様子。
「では案内してやろう」というわけで革ジャンパーを羽織り、オサムの軽自動車を運転して徒歩なら2分の義父母の家を案内。
 オートロックのボタンを押す。
「タカギとオサムです」
「はい?」
 驚くのも無理はない。
 俺はテクテクと徒歩2分で帰宅。

 ワミから電話。
「店にいる?」
「いないよ」
「なあんだ」
 これから、黄門ちゃまとCRIMSON ROOMに行く予定とのこと。
 ありがたい。

 チャットでマッツと打ち合わせ。

 ソレドロ。
 ベンザリン2錠。
posted by TAKAGISM at 00:00| Comment(0) | ササイのことで思い出した
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