2007年02月14日

【第040章】

 その後、何日かを、俺は祥子の家で過ごした。
 近所の電器屋で、冷蔵庫や電話機などを買いそろえた。
 買い物は簡単だった。常に一番安いものを選んだからだ。
 
「夕食はどうする? いつも外食じゃなかったんだよね?」
「いつもはだいたい、お互い外で食べてくるか、たまに本堂が作った」
「君は料理はしないの?」
「したことない。冷凍食品ならよく作ったけど、もう電子レンジがないわ」
 冷凍食品は、作るとは言わないだろう。

 俺は料理してやることにした。
 最初に作ったのはクリームシチューだったと記憶している。
「最初に肉を炒める野菜を炒めるなんていうのは、無意味なんだよ」
「でも、この箱にはそう書いてあるけど?」
「あと『アクをすくえ』とかだろ? そういうのは、横着者の奥さんでも、料理をしたような気になれるようにという、メーカーのおもわくさ」
「じゃあ、どうするの?」
「肉と野菜を切って、水とルーと一緒に鍋に入れて、あとは焦がさないように煮るだけだ」
 興味なさそうな顔で、祥子は聞いていた。

 俺自身はといえば、自炊の際に、レトルト食品や市販のルーを調理することはめったになかった。
 見切り品のトマトを箱ごと買ってきて、大きな鍋で煮込んだり、ニンニクと鷹の爪だけでスパゲッティを作ったりしていた。
 あるいは大きなランプ肉を買ってきて一晩野菜くずと油に漬け込んで、豪快に網で炙ったりした。
 蛸山が居着くようになってから、そうした、素材からの料理作りはますます多くなっていた。
 やつは小麦粉を大量に買い込み、器用にナンを焼いたり、麺を打ったりまでしたものだ。
 そんな料理を祥子に教えても、どうなるものでもない。
 しかし俺は何か、使命感のようなもので、そうしたことを教えてやっていた。
(彼女は、俺が原因で一人になった。そうしてなんだか、頼りない。この子が一人でちゃんと暮らしていけるようにしてやらなくては)
 というわけだ。
 
 あるていどまで祥子の暮らしが整ったのを見て、俺は急に、一人の時間が恋しくなった。
 いや、寮の自室が、と言ったらいいのかもしれない。
 その日も、昼夜兼帯できる肉じゃがのようなものを作ってやって、俺は帰ることにした。
 なにしろ、下着こそ安売り店で買った物に着替えてはいたものの、ずっと同じ服を着ていたのだ。

「また、戻ってくるよね」と祥子は、心細い声で言った。
「戻ってくるよ」
「ぜったいね」
「わかってる」
posted by TAKAGISM at 00:00| Comment(0) | ササイのことで思い出した
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