2007年02月20日

【第046章】

 祥子の部屋には、必要最低限の家具が揃い始めていた。
 彼女には必需品だった電子レンジも、いつの間にか冷蔵庫の上に乗っかっていた。

「来るなら来る、いてくれるならいてくれるのが、いい」
 俺が気まぐれに深夜訪れることへの不満だ。
 これには冷静に答えることが出来た。
「彼氏と別れることになったことには、オレに理由があるかもしれないけど、オレはここに住むつもりはないよ」
 何を考えていたのか、祥子はしばらく黙っていた。
 やがて、
「住まなくてもいいから、来るときはあらかじめ、言ってほしい」
「それは、今後、そうするよ」
「大森よりは近いからって、ここをホテルにしているでしょ?」
 もちろん、思い当たるふしはあった。
 が、同時にカツンときたところもあった。
「じゃあ、今後はちゃんと大森に帰ることにするよ」
「そういう意味じゃないの」
「どういう意味なんだ?」

 おそらく今も、夜ごと、世界中の男女の間で、そんな会話が交わされていると思う。

「安定がほしいの。リズムって言ったらいいのかもしれないけど」
「わかるような気がする」
「あなたがどういう日常してるかわかんないけど、あたしはあたしの日常があるの。レッスンも撮影もあるし、学校へも行ってるし。でもあなた最近、学校へも来ないし、夜中に突然来るし」
「だから判ったよ。もう夜中の訪問はしないよ」
「そういうことじゃないの」
「どういうことなんだ?」

 いま現在、世界中の男女の間で、そんな会話が交わされているはずだ。
 
 あえて言おう。
 このときの、女の子の言うべき正しいセリフは、
「もう来ないでちょうだい」なんだ。
 きっとそれが正しいんだろうと、今の俺は、そう思う。
 
 だが、彼女がその時言った言葉を、俺はあえて書くことにしようか。

「……って言っても、あたしにもセックスは必要だし

 別にショックでもなければ、驚きでもなかった。

 そして、俺が答えたセリフを、俺はもちろん書こうさ。

セックスにスケジュールなんて、ないだろ?

 俺たちは狂っていたか?
 そんなことはないと思う。
 若い男女の、すごく真面目な会話だったんだ。

「中江さんがね……」と、祥子は言った。エージェンシーの部長の、中江女史だ。「やっちゃだめだって言うの」
「なんで?」
「体が崩れるし、気持ちも崩れるんだって」

 俺は、3秒黙っている間に、本堂との同棲を知った時の中江さんの困惑を思い出した。

「なにを根拠に」
「あたしも判らない。でも、あたしは、ステージに立つようなモデルじゃないから、好きにすればいい、って言うの」
「ステージに立つ女は、やっちゃいけないのか」
「おしりが大きく、平たくなっちゃうんだって」
 
 なんて話を書いているんだろう、俺は!

 けど、もういいだろう。
 ここまで書いてきたんだし。
 そういう話もあったってことで、読んでくれたらいい。

 そして俺たちは、絡み合って、それぞれが気持ちヨクなっていたのさ。

 俺のあいまいな結論は、
「学校へ毎日行くかどうかは別として、遅くとも23時までにはこの部屋に帰るよ」
 ってやつだった。
posted by TAKAGISM at 00:00| Comment(0) | ササイのことで思い出した
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